猫の死

夕方、実家の母より電話があった。
家の猫が死んだ、と。

母にとっては、この猫が心の支えのようなところがあって
猫が死んだら母も弱るのではないかと心配だったので
「猫ちゃん、いつまでも元気でね」と言い続けていたのだが
もう18年も生きているのだから覚悟はしていた。
母にもそう言い続けていた。

母は、しっかりと最後まで看取ってあげることができたそうだ。
死んだ瞬間はそばにいなかったそうだが、
猫は死ぬ間際を人に見せない。

だから、母が席を外したときを選んだのだと思う。
大往生だ。

この猫は、私が友人と下宿住まいをしている時に拾った。
当時、お風呂が使えなかったので近所の銭湯に通っていた。
夏の暑い夜、お風呂帰りにすぐそばの公園で涼んでいた。
ぽてぽて散歩していると、子猫の鳴き声が聞こえた。

彼女が「そこのゴミ箱から聞こえる」
指さしたゴミ箱には紙バッグが捨てられていた。
私はこれ以上かかわれないと思って、「帰ろうよ」と言ったが
彼女は紙バッグつーか紙袋を取り出し、
さまざまなゴミを取り分けて、二匹の猫をつまみあげた。

生後まだ1日とか2日とか、とにかくまだ目が開いていないほど小さい。
ニイニイ、と鳴くその声は弱々しく、今にもこときれそうだった。

どうしよう。
どうしよう。

困惑しているとおまわりさんが通りかかった。
「君たち、何をしているんだ」という風に聞かれたのでこれ幸いと
「猫が捨てられていたんです、このゴミ箱に」
「こんな風にゴミと一緒に紙バッグにぎゅうぎゅうに詰め込まれて」
そう訴える我々の話の内容を理解するや否や
「ああそう」と少し困った顔をしつつ、おまわりさんは言ってしまった。

警官が捨て猫の処理なんてしないわな。
私が困りつつも、これは自然の摂理で死ぬほかないわ、と
かなり冷たい方向でこの状態を打ち切ろうとした時
友人が「連れて帰る」と言い出した。

私は驚きつつも算段をした。
「いつか帰省するとき、田舎につれて帰ろう」と。

2匹のうち、1匹は鳴き声も弱々しく、
連れてきて2日目か3日目で亡くなった。

1匹は変な鳴き声だけれど、ミルクをスポイトでやると
だんだん元気になってきて、少しずつ大きくなった。
目も開けられるようになり、くりくりと可愛い目をして
私たちを見ると鳴いた。

さあトイレ。
トイレのしつけは友人がやった。
ものの見事に数回で教え付けた。

さあ爪研ぎ。
ペットショップで買ってきた。

さあ予防注射。
そして不妊手術。

猫は保険がきかないから、驚くほど高かったけれど
折半して受けさせた。

そうして1年後。
私が田舎に帰ることになり、連れて帰ってきた。

最初のうちは私以外の手からごはんも水も食べなかった。
私が仕事をするようになると、ずっと押し入れにこもり
仕事先から帰ってくるまで、飲まず食わずで押し入れにこもっていた。

ひきこもり猫。

そんな彼女も、1日そばにいるのは母だと納得し
いつの間にか、母の方に愛情をよせるようになった。

そして私は嫁に行き、猫はすっかり母の猫になった。

妙な猫だった。
くせのある猫だった。
(妙でない、くせのない猫なんて見たことがないが)

本当にかわいい猫だった。
変な猫だった。
母の大切な猫だった。

最後に会いに行きたかった。


神様、母が元気でいられるように守ってください。
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by okaeri110 | 2006-07-14 20:13 | 日々の暮らし | Comments(0)

今はとにかく、猪突猛進、決して後ろを振り向きませんのだ


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